▲埋もれていた縦坑の土砂を掘り出しながら、坑木を組み、下降していくための足場を作っていく。
▲98年秋から99年春までの3次にわたる作業で、5m下の縦坑の底へたどり着くことができた。
 1999年5月中旬、山々を新緑が彩り始めたころ、我々は心を躍らせて山道を登った。荷物の重さは相変わらずだが、それが苦にならない。想定外の作業だったとはいえ、前月、埋もれていた高さ5メートルの縦坑をついに貫通させた。第一ステージクリアだ。宝蔵はもう近い。時価3000億円の巨宝をぐっと引き寄せた手応えがあった。
 今度は、依頼人のTさんも同行する。ここぞという場所を示してもらわなければならないからだ。予想よりも早かったと、Tさんは我々の作業能力を評価してくれた。ただ、坑木の組み方は、Tさんから見れば度が過ぎているようで、苦笑しながら眺めていた。
 私が先頭に立ち、縦坑の周囲に組んだ坑木を梯子代わりにして下降する。足が着きそうになったとき、ろうそくに火をつけた。大丈夫、酸素はあるようだ。体勢を入れかえて前方を見ると、高さ2メートル以上ある半月形の空間が明かりの中に浮かび上がった。奥行きは3メートルといったところ。そこからさらに直径1.5メートルほどの斜坑が続く。斜坑は5メートルで二手に分かれ、どちらも2メートル前後で行き止まりになっていた。この穴はすべて土砂が詰まっていたのを、Tさんたちが掘り出したものだ。周りは硬い岩盤になっている。
 二名氏に続いて3番目に降りてきたTさんは、半月形の空間を懐かしそうに見回したあと、自信たっぷりに言った。
「この足元が怪しいとにらんでいるんだけどね」
 幅1メートルほどの床面は、まだ上から落ちてきた土砂に覆われていたが、それを足で少しはねのけてみると、明らかに左右の岩盤とはちがう白っぽい岩が露出した。よくよく見ると、石畳のように一定の大きさの岩をきちんと並べて固めたような感じがする。
「なるほど、これがふたで、下は空洞になっているわけですね」
 私は瞬時にトンネルの構造が理解できた。斜坑から奥に続く穴の役割もわかった。岩盤をくり抜いて財宝を収める小部屋をつくったあと、ふたをしたのだとすれば、掘り出した岩の一部をキープしておく場所が必要になる。それが奥の部分なのだ。Tさんの読みは当たっている。まちがいない!
▲縦坑の底に下りると半月形の空間があった。

Copyright 2000~2017 Mitsuhiro Yaeno. All rights reserved. 無断転載・複製禁止