◆宝蔵はこのようにしてつくられた?
 プロジェクトがここまで進行していながら、なぜまだ財宝の発見に至っていないのか、そのことを述べなくてはならないだろう。実は、以後2001年までに5回、通算9回の調査を敢行しているのだが、いろいろな要因があって手間取っている。第一に、宝蔵のふたとみた床面の岩が硬くて厚く、手持ちの道具では歯が立たない。はっきりと岩と岩の接合部と認められる箇所も確認できない。そこで、斜坑の下に見つけた岩盤の隙間が別の入り口ではないかと、それを拡げる作業を始めたのだが、酸欠という問題が起こった。
 縦坑の周囲に必要以上に坑木を組んだことも影響しているのだろう、空気の流通が極端に悪くなっているようで、トンネルの最下方では、ろうそくの火が消えるようになった。酸素よりも重たい二酸化炭素が滞留しているのだ。酸欠というのは恐ろしいもので、一瞬にして意識を失うらしい。穴の底で倒れたりしたら、外に運び出すのはまず無理だ。危険は極力避けなければならない。
 対策がないことはない。我々は60リットル入りのの大きなゴミ袋を穴の底で広げ、周囲の空気、つまり二酸化炭素の濃度の高い部分を詰めて口をしばり、リレーで約30メートルを運んで外に出してみた。これを3回やると、ろうそくの火がつくようになる。念のために10回これをくり返した。
 しかし、問題はこれにとどまらなかった。次に心配になったのはクマの出没である。この山にイノシシ、シカ、サルが生息していることは最初からわかっていたが、Tさんから、クマは隣の山にはいるが、こちら側では過去に一度も遭遇したことはないと聞いて安心していたのだが、あるとき、ブナの大木の地面から3メートルほどのところに、長さ20センチ以上の鋭くて深いひっかき傷があるのを発見した。そのすぐ上にハチの巣があったから、クマがそれを狙ってよじ登ったのはまちがいない。よもや向こうから襲ってくることはないと思うのだが、油断できない。
 さらに、予備調査も含めて11回の探検行で、資金的にも苦しくなってきた。途中から資材費は少なくなったが、1度行けば全員の交通費、食費などに5~6万円はかかる。5回ほどで決着がつくとふんでいたのが、予想に反して倍の時間がかかっている。
 それともう一つ、悪いことは重なるもので、2001年以降、長い間調査を中断したことによって、トンネル内の坑木と足場が弱く
▲坑木にした生木からすだれのように伸びた気根
なっている可能性がある。2005年に一度、様子だけを見に行ったことがあるが、生木を坑木にしたので、方々から根が伸びてすだれのようにぶら下がっていた。すさまじい生命力だ。その結果、木の内部がスカスカになっていると思われるのだ。
 テントをはじめキャンプの装備類も一から用意しなければならないようで、再開するとなれば数十万円の資金を用意する必要がある。「これが宝探しの現場」の1でご紹介した徳川埋蔵金の調査を優先させたのは、近場でもありさほど費用をかけずにできるし、こちらで成果を出せば、Tプロジェクト再開のきっかけになると考えたからだ。もちろんまだ諦めてはおらず、依頼人の元気なうちに決着をつけたいと思っている。その依頼人の意向もあり、今の段階では場所を明らかにすることはできない。冬場は深い雪に閉ざされる北陸某県の山中というだけで、ご勘弁願いたい。

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