■ゴム銃(パチンコ)、えの実鉄砲などの飛び道具は、男の子の必需品
 子どものころ、おもちゃを買ってもらった記憶はほとんどありません。でも、身の回りには遊び道具がいくらでもありました。たとえば、そのまま遊び道具になる植物です。
◇オオバコの茎→草相撲 ◇スズメノテッポウ→草笛 ◇カヤツリグサ→蚊帳作り ◇オナモミの実→つぶて ◇オシロイバナの種→おしろい ◇ヤマノイモの実→天狗の鼻 ◇ギンナンの実→おはじきの代わり
 わが家の裏庭には、毎年ホオズキが勝手に生えてきて、姉たちが実の中をくり抜き、口に含んで「ブイッ、ブイッ」と鳴らしていました。ぼくはあの苦い味がイヤで、口には入れず、もっぱらストローの先につけて息を吸ったり出したりして遊んでいました。ふくらんだり縮んだりして、ビードロのようにペコペコと音も出ます。
 姉たちはホウセンカの花で爪を染めていました。自然のマニュキアですね。これはちょっと手間がかかります。まず、赤い花びらにミョウバンを混ぜてつぶします。そして、ひとつまみを爪の上に置いたら、カラムシ(苧)の葉で包み、輪ゴムなどでしばります。そのまま一晩おくと爪が染まり、1週間くらいは色が落ちません。ぼくもときどき足の親指だけを染めていました。
 次に、遊び道具を作るときの材料となるものです。
◇ジュズダマ→お手玉 ◇ドングリ→コマ ◇イヌマキの葉→十字手裏剣 ◇笹の葉→舟
▲ハンミョウの幼虫がすむ穴。エサをとるため地表に顔を出していることが多い。
▲ヤエムグラ。茎の中心にある硬い芯を虫釣りに使う。
 ぼくが熱中していたのはヤエムグラの茎を使った虫釣りです。ターゲットは地表近くに穴を掘ってすむハンミョウの幼虫で、ぼくらは「ゴーゴー虫」と呼んでいました。ヤエムグラはどこにでもある雑草で、角張った茎の中心部に硬い芯があります。それを取り出して穴に入れるのです。たいていすぐ食いついてきますから、タイミングを見計らってすばやく引き抜くと、幼虫が釣れます。とてもグロテスクな姿で、極彩色の羽をもち、“走る宝石”とまでいわれるハンミョウの幼虫とはとても思えません。一度に何十匹も釣ってニワトリのえさにしました。
 小学校の低学年から中学年ごろまで、年齢で言えば7歳から10歳ごろまでですが、男の子の遊びにどうしても必要なものがありました。それは、ぼくらが「ゴム銃」と呼んでいたパチンコや、季節ものの「えの実鉄砲」などの飛び道具です。ゴム銃は駄菓子屋さんなどで売ってはいたものの、柄が針金でできていて実用的ではなく、そのまま持っていると恥ずかしいほどでした。だから、改造しなくてはなりません。柄をりっぱな木に換えるのです。ほどよい太さで強度もある二又の枝。それが条件です。幸いわが家には条件にピッタリのモミジの木がありました。握りやすい長さに切り、肥後守で樹皮を削って形をととのえます。市販のゴムとたまをこめる皮の部分をこれにつけ替えればできあがり。しっかりした武器になり、スズメでも撃ち落とせます。でも、とうとうぼくはスズメを獲ることはできませんでした。技術が未熟だったのでしょう。生き物を狙うこともあまりなかったような記憶があります。その代わりといってはなんですが、投げ玉(かんしゃく玉)をゴム銃で飛ばし、塀などにぶつけて派手に鳴らしていました。
 初夏だけに楽しめるのが「えの実鉄砲」です。原理的には圧縮空気の力でたまを飛ばすわけですから
、空気銃の一種といっていいでしょう。ただし、たまは木の実、そう、エノキの実です。しくみは図の通りで、シーズンには若竹を切って鉄砲を作り、えの実をポケットいっぱいに詰めて走り回り、撃ちまくりました。顔に当たったりするとけっこう痛いので、だんだん熱くなってきます。時のたつのも忘れて、戦争ごっこに興じました。

■野球盤を作り、夏休みの宿題として提出しました
 有名なエポック社の「野球盤」が発売されたのは、昭和33(1958)年5月のこと。ぼくが小学校5年生のときでした。野球は大好きでしたから、もちろん野球盤も欲しかったのですが、買えません。なにせ、1750円もしましたから。そこで、夏休みに自分で作ることにしました。自分の中では「遊び道具は自分で作る」が原則でしたし。買った友達に見せてもらって研究しました。しくみはわりあい簡単でした。盤全体はベニヤ板。58センチ×58センチの本物とほぼ同じ大きさにしました。プレーヤーは木製(こけし人形)でしたが、これはボール紙でもかまいません。最も重要なのはボールを発射する装置と、バットを回転させるしくみです。本物はバネを使っていましたが、ゴムでもできそうです。また本物のバットはアルミ製だったと思いますが、木を削って作りました。ボールはパチンコ玉でOK。パチンコ好きな父からもらいました。どれくらい時間をかけたか覚えていませんが、ちゃんと遊べるものができあがりました。うまく打てば、本物と同じように場外ホームランも出ます。
 買えないから作る、作って遊ぶ。という目的で作った自家製野球盤でしたが、あまりのできばえの良さに欲をかいて、夏休みの宿題として提出してしまいました。ところがたいへん。2学期に入ってまもなく、夏休みの作品の展示会が催されたのです。廊下に長机が置かれ、その上に昆虫の標本などといっしょにぼくの野球盤が展示されました。休み時間になると、その前に長い列ができました。

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