■タイムリミット間近の最後の挑戦

片品の山は11月に入ると雪が降り始める。タイムリミットまであと半月。ぎりぎりまで引っ張ってきたメンバーの志気と体力はほぼ限界。
「あと1回だけ」「最後の挑戦」という覚悟で臨んだ第13期だった。
まず、立て坑のすみずみまで突き棒や三本鍬を使って掘りまくる。ガリガリ、ゴリゴリという音が穴の底に響き渡る。道具の先がコツンという木箱に当たる音を立てればいいのだが…。
しかし、底にたまっていた砂の層もさほど厚くはなく、まもなく床のすべてが固い岩盤におおわれる結果となってしまった。
「ここにはない」
そう結論づけるしかなかった。

二重構造の立て坑の奥は広さが1×1m程度、高さは約2m。壁を伝って落ちてくる地下水がじわじわと底にたまる中、三本鍬で掘りまくるが、手応えはなかった。 最奥部の角を床から天井まで金を含む太い石英の鉱脈が走る。まだまだ金が採れそうな感じだが…

底面の中央の最も軟らかい部分に突き棒をさす。まだ入っていく感触はあるが、狭い範囲だから、その下に千両箱があるとは考えにくい。
右手の坑道は20m以上続いているが、奥へ行くにしたがって細くなり、ついには体が入らなくなる。記録にもあるが、この穴は坑道ではなく、空気抜きの穴だったと考えられる。
分岐点の手前の左側の壁に文字が書かれているのを発見。「天」「氏」などが読み取れるが、全体としては意味不明。
立て坑以外の場所にある可能性はないか、もちろんそのことも考え、最終日は坑道内のすべての場所を徹底的に調べて回った。しかし、考えてみれば、15個の千両箱を置くスペースとなると、かなりの広さを必要とする。左奥の立て坑以外にそんな場所は見つからなかった。

ドーム状になっている分岐点の上方に棚のような場所があったので、「もしや」と思って探ってみたが…。
◆結論として…
千両箱が見つからなかった理由は、次の3つのうちのどれかである。
1.もともと坑道内にはなかった。
2.すでにだれかが持ち去った。
3.坑道内のほかの場所にある。

しかし、どれについても明確な説明ができない状態が続いている。1の場合はだれかがウソをついていることになるが、萩原翁にしろ、翁の死後にメッセージを伝えに来た老人にしろ、そんな手の込んだウソをつく動機が思いつかない。最も有力なのは2で、調査に参加したメンバー内では、立て坑に落ちて亡くなったはずのH氏が、実は生きていて、萩原氏の知らないうちにすべてを運び出してしまったのではないかという推論が支持されている。だが、もしそうだったとしたら、狭い村の中だから、どこからかウワサが聞こえてきてもよさそうなものである。あとは、依然として大量の土砂で大部分がふさがれたままの坑口付近に埋もれている可能性は残る。H氏がここまで運んできて力尽きたか、あるいは突然の崩落で埋もれてしまったか。以後、断続的に数回にわたって現地へ通い、坑口付近の土砂を片づける作業を行っている。
●なお、まだ残ってる鉱脈の一部を削り取って持ち帰り、分析してみたところ、金が含まれていることが確認できた。


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