「発見した財宝は誰のもの?」「沈没船の財宝の扱いは?」
 発見した埋蔵金は「遺失物法」の適用を受ける
  地下から掘りだした埋蔵金は、民法第241条「埋蔵物の発見」の規定により、「遺失物法」の適用を受けます。つまり、道で財布を拾ったときとまったく同じ扱いなのです。発見した人は、その場所が自分の土地であろうと、他人の土地であろうと、所轄の警察署長あてにすみやかに届け出なければなりません。もしこれを怠ると「遺失物等横領」の罪に問われ、刑事罰を受けることになります。
(※ただし、この法律は工事中など偶然の機会に埋蔵金を発見した場合においては適用されてしかるべきですが、トレジャー・ハンターによって発見された場合に同じ扱いをすれば無理が生じます。詳しくは後述します。)

  「遺失者は誰か」が第一の問題
 届け出を受けた警察は、まず埋蔵金の遺失者(なくした人)は誰かを調べます。公告(世の中に広く通知をすること)をした後、6か月間、所有権者が現れるのを待ちます。「埋蔵金に遺失者なんているの?」と疑問に思う人もいるでしょう。札束ならともかく、大判や小判などは昔のお金ですから、それを埋めた人は、とうにこの世の人ではないはずですからね。ところが、自分の先祖がお金をその場所に埋めたことと、自分に財産の相続権があることを証明できる人が現れれば、その人が遺失者として物件の所有権を認められることがあります。でも、それを証明するのは非常に難しく、戦後の約50件の発見例中、他人の土地から見つかったもので遺失者が確定したのは、1割程度しかありません。
 遺失者が見つかった場合、埋蔵金は全部警察からその人に返還されます。保管費と公告費は返還を受ける人が負担しなければなりません。そして、ここからが大事なのですが、発見者には返還を受けた人に対して、埋蔵金の価格の5パーセントから20パーセントの「報労金」を受け取る権利が与えられます。何パーセントにするかは話し合いで決めるわけですが、これまでにあったような偶然の発見の場合、10パーセントというのが相場になっているようです。それから、これも大事なことですが、発見者が報労金を請求できるのは、埋蔵金が遺失者に返還されてから1か月以内とされています。

 遺失者がわからないときは発見者と地主とで折半
 では、届け出から6か月たっても、遺失者がわからなかったらどうなるのでしょう。その場合は、発見者と埋蔵金が見つかった土地の現在の所有者とが「等しい割合」で物件の所有権を取得します。上と同じく保管費と公告費は所有権を得た人が負担します。

 「文化財保護法」に引っかかる場合もある
 発見された埋蔵金の関する法律は、それだけではありません。もう一つ、「文化財保護法」が関係してくる場合があります。つまり、昔の金貨や銀貨の中には、現存するものが少なく、歴史的にみてその希少性が高く評価されることがあるのです。また、きれいな状態で出土すれば、美術工芸品としての価値もあります。そういうものを法律によって紛失や損傷から保護しようというわけです。
 届け出を受けた警察は、物件が埋蔵文化財の可能性がありそうだったら、その土地の教育委員会に鑑定をしてもらいます。そして、遺失者が見つかった場合は、その人に返還したうえで埋蔵文化財に指定します。遺失者が見つからなければ、物件は国庫または都道府県に帰属し、発見者と土地の所有者に対して、物件の価格に相当する額の「報償金」が支払われます。両者が同一人なら全額、別人なら半分ずつとなります。 ただし、報償金が支払われず、発見者と土地の所有者に現物の所有権が与えられることもあります。この場合は、物件をきちんと保管しなければならないし、勝手に売りさばくこともできないので、現金が欲しい人にとっては、一文のトクにもならないわけですね。


 沈没船の財宝は「水難救護法」が適用される
 海底に沈んだ船から見つかった財宝は、埋蔵金とはちがう扱いを受けます。この場合に関わってくる法律は、「水難救護法」です。発見者は警察署長ではなく、沿岸の市町村長に届け出て、市町村長が保管・公告します。
 そして、財宝がむき出しの場合は6か月以内に、沈没船の中にあった場合は1年以内に遺失者が現れなければ、保管・公告にかかった費用を払ったうえで、まるごと発見者のものになります。遺失者が現れても、それを引き取るときは、保管・公告料を遺失者が負担して、物件の3分の1相当額を市町村長に支払い、市町村長はそれを発見者に支給することになっています。ですから、発見者は悪くても3分の1はもらえるわけです。


 提言 ネコババを防ぐために法を改正することが望ましい
 ここで私の考えを述べさせてもらいます。発見された埋蔵金に関する法律には、いくつかの不備な点があります。まず、「遺失物法」についてですが、この法律は埋蔵金が工事中などまったく偶然の機会に発見された場合にしか対応していません。
 たまたま掘り出したのであれば、財布を拾ったときと同じ扱いでいいかもしれませんが、私のようなトレジャー・ハンターが、長い時間と労力と費用をかけて、埋蔵金を掘り当てた場合にも、現行の「遺失物法」が適用されるとなると納得いきません。ほかにちゃんとした法律があればいいのですが、「民法241条」と「遺失物法」以外に、それらしいものが見当たりません。これまでは、それでも不都合はありませんでした。なぜならば、届け出があったものは、すべて偶然の発見だったからです。では、探索者によって“掘り当てられたもの”がまったくなかったかというと、そうでもなさそうです。畠山清行氏の記録によれば、埋蔵金発見の届け出が最も多かった昭和30年代40年代には、実際に見つかった件数は、届け出があったものの約10倍に達していたそうで、その中には“掘り当てられたもの”も含まれていたと聞きます。
 偶然にしろ、そうでないにしろ、届け出ずにネコババするケースが多い理由はいろいろあります。多くは面倒だし手っ取り早くふところに入れたいからでしょう。「届け出たら取り上げられる」というまちがった考えの人もいるようです。また、公共工事ではなく、ビルの新築工事などの途中でへたに掘り出したりすると、「文化財保護法」の規定により工事がストップしたり、ややこしい問題が起こります。残念なのは、探索者が掘り当てても、「遺失物法」を適用されるのは合点がいかないという理由で隠してしまうケースです。
 私は1974年にトレジャー・ハンティングを始めた当時から、もし発見したら必ず届けようと思っていました。発見者の取り分がどれだけになるかなどあまり頭にはなく、むしろ世間をびっくりさせてやりたいというのが第一の目的でしたから、発表しないわけにはいきません。それから40年以上の年月が過ぎ、だれかほかの人が掘り当てて発表してもいいはずなのに、先例はいまだ一つもなく、私が「発見第1号」の栄誉に輝くチャンスは残されています。そして、いよいよ発見の日も近いものですから、最近真剣に考えているのは、届け出るとともに法律の改正を訴えることです。もしも、偶然の発見と同じく「遺失物法」の適用を受けそうになったら、訴訟を起こすつもりです。ほかの人たちにも、ぜひ届け出てほしいものですから、このままではいけないと思っています。
 それから、「民法241条」にも問題があります。それは、上の「3」で説明した点です。遺失者がわからなかった場合には、発見者と物件が見つかった土地の所有者とで折半となっていますが、なぜ土地の所有者に半分もの所有権が与えられるのでしょう。それは、この法律が明治30年ごろにできた古いものだからです。そのころまでは、土地の所有者がコロコロ変わることはなかったのでしょう。ですから、現地主の先祖が埋めた可能性が高いと見なされたのです。まったく事情のちがう現代においては、この法律は化石同然です。
 以上の内容を整理しながら、どのように法律を改めればいいか、具体的に案を練ってみました。


民法第241条【埋蔵物の発見】
<現行>埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後六箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを発見した者がその所有権を取得する。ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については、これを発見した者及びその他人が等しい割合でその所有権を取得する。
<改正>埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後六箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを発見した者がその所有権を取得する。ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については、
その他人は発見した者に対し一部の所有権を要求することができる。(※一部の所有権というのは当該物件の価格の百分の五以上百分の二十以下くらいが妥当か。それをこの項で明確にするか、もしくは「遺失物法」の中に新たに取り入れる)

遺失物法「第三章・費用及び報労金」第二十八条
<現行>物件(省略)の返還を受ける遺失者は、当該物件の価格(省略)の百分の五以上百分の二十以下に相当する額の報労金を拾得者に支払わなければならない。
<改正>物件(省略)の返還を受ける遺失者は、
それが拾得物である場合は当該物件の価格(省略)の百分の五以上百分の二十以下に相当する額の報労金を拾得者に支払わなければならない。埋蔵物が計画的に発掘されたものであれば、百分の五十以上の報労金を支払わなければならない。

 こうすれば、発見者は物件の遺失者(所有権者)がわかったときでも半分以上、わからなかった場合は80パーセントから95パーセントもらえることになります。
 要は、埋蔵金の発見が偶然の場合と計画的である場合をはっきり区別して、計画的な発見者が正当な所有権を取得できるようにするということです。刑法でも、犯行が偶発的なものであったか計画的であったかで罪の重さはずいぶんちがいます。そこで重要なのは、トレジャー・ハンターが発見して届け出た場合、それが計画的であったことを証明する必要があるということです。非公開でこそこそと探索をやっていると、当然ながらその証明が難しくなります。私が最初からマスコミの取材を受け入れたり、おおっぴらにやってきた理由が、もうおわかりでしょう。

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